今回は、屋根の大規模リフォーム手法の一つである『カバー工法(重ね葺き)』の基礎知識やメリットなどをご紹介していきたいと思います。
古くから和瓦などを採用した瓦屋根が多かった日本ですが、近年の新築業界ではカラーベストやコロニアルと呼ばれるスレート屋根を選択する方が増加しています。スレート屋根は、瓦よりも圧倒的に軽量な屋根材であり、豊富なデザイン性や施工性の高さ、さらに安価だということが人気になり、新築業界で瓦に取って代わる屋根材となっています。そして、スレート屋根のもう一つのメリットとしては、カバー工法による屋根リフォームが可能だという点です。スレート屋根というものは、屋根材自身が防水などの機能を持っておらず、表面に施されている塗装によって各種機能を得ることから、約10年に1度と言った頻度で再塗装工事が必要になります。しかし、材料的な耐用年数が25年程度ということもあり、築20年を過ぎたあたりの再塗装タイミングでは、カバー工法によるリフォームが推奨されているのです。
カバー工法によるリフォームを行えば、安価に新しい屋根材を施工することができ、最も高額な屋根リフォームである葺き替え工事を先延ばしにできるわけです。つまり、中長期的に見ると、家のメンテナンスコストを削減できるという点がカバー工事のメリットだと考えられるでしょう。
現在、住宅の屋根材としてスレート屋根を採用している場合は、カバー工事がどういったものなのかを理解しておくことがとても大切です。そこでこの記事では、カバー工事の基礎知識やメリットに合わせて、葺き替えとの違いについて解説しておきます。
カバー工法の基礎知識
それではままず、スレート屋根のリフォーム手法として多用される『カバー工法』について、このリフォーム手法がどういったものなのかという基礎知識をご紹介していきましょう。
カバー工法は、劣化が見られる既存屋根はそのままに、その上から新たな屋根材を葺いていくというリフォーム手法となります。もともとあった屋根を覆うように新たな屋根材を葺いていくことから「カバーする」という意味でカバー工法と言われたり、屋根が二重になることから『重ね葺き工法』などとも呼ばれます。
一般的にこのカバー工法に関しては、スレート屋根を採用している住宅で、2回目の再塗装のタイミングとなる築20年以降に選択されるリフォーム手段となります。屋根塗装に採用される塗料に関しては、約10年程度が耐用年数の物が多く、2回目も再塗装を選択した場合には、塗料の寿命より前に屋根材の寿命を迎えてしまうことになることから、劣化が進行しすぎてカバー工事が選べなくなってしまう可能性があるためです。2回目の再塗装のタイミングでカバー工事を行えば、そこからさらに20~30年程度は葺き替え工事が必要なくなりますので、屋根メンテナンスにかかる総額の維持費を削減できるようになるわけです。
なお、カバー工法にてリフォームを行う場合、瓦以外のスレート屋根・金属屋根・アスファルトシングル屋根が選択できるのですが、屋根が二重状態になることから、屋根重量が重くなります。そのため、カバー工事では、屋根材の中で最も軽量な金属屋根素材が選択されることがほとんどです。
カバー工法のメリット・デメリット
それでは、カバー工法による屋根リフォームのメリットとデメリットを簡単にご紹介しておきましょう。カバー工法最大の特徴は、既存屋根はそのままに、新しい屋根材を葺いていけるという点で、この特徴からさまざまなメリットが得られるのです。
カバー工法のメリット
まずはカバー工法のメリットからご紹介していきましょう。ここでご紹介するメリットは、葺き替え工事と比較した場合のメリットになります。
- ■工期が短い
カバー工法によるリフォームは、葺き替え工事と比較すると、短い工期で工事が終了するというメリットがあります。これは、既存屋根の撤去工事などが必要ないためです。
- ■安価に工事ができる
葺き替え工事と比較するとリフォーム費用が安価だという点もメリットです。葺き替え工事の場合、既存屋根の撤去工事がありますし、撤去した屋根材の処分などにも費用がかかります。カバー工法では、棟板金を撤去するだけで、そのまま新たな屋根材を葺いていきますので、撤去や処分のコストを削減できます。
- ■周辺への影響が少ない
葺き替え工事の場合、屋根材の撤去の際、大きな音が鳴ったり、ホコリがたったりしますので、近隣住民にそれなりに迷惑をかけてしまいます。もちろん、工事前に挨拶にまわって、ホコリがたちそうな日程を事前に説明しておくのですが、迷惑をかけてしまう事実は変わりません。カバー工法の場合、大きな音もホコリも生じにくいという点がメリットです。
- ■アスベストにも対応可能
古いスレート材の中には、アスベストが含まれているものがあります。アスベスト含有屋根の葺き替え時は、専用の養生や処分費が高額になるのですが、カバー工事は、そのまま封じ込めることができますので、アスベストの有無で工事費が変わったりしません。築年数が経過したスレート屋根では非常に大きなメリットになります。ただし、アスベスト問題を先送りにしているだけですので、いずれアスベストの対処は必要です。
カバー工法のデメリット
カバー工法は、葺き替え工事よりも短工期で安価に工事ができるというのが最大のメリットです。消費者からすれば、非常にありがたい工法だと言えますが、いくつかのデメリットも存在しますので、以下の点は頭に入れておきましょう。
- ■屋根重量が重くなる
カバー工法は、既存屋根の上にそのまま屋根を作っていくものですので、屋根重量は確実に重くなってしまいます。屋根重量が重くなると、建物の重心が高くなることから、耐震性が悪くなると言われていますので、この部分は明確なデメリットと言えます。なお、近年では非常に軽量な金属屋根を採用することがほとんどで、二重屋根の状態になっても瓦屋根よりは軽量です。つまり、そこまで深刻に考えなくても構わないと思います。
- ■新屋根材の選択肢が少ない
カバー工法を採用する場合、二重屋根になってもそれなりの屋根重量に留めるため、金属屋根(ガルバリウム鋼板屋根)一択だと考えておいた方が良いです。したがって、「気分を変えて瓦屋根にしてみよう!」などと言った住民の要望が通らない…という点がデメリットと言えるでしょう。
- ■施工条件が厳しい
葺き替え工事であれば、基本的にどのような屋根の状態でも採用することができます。しかし、カバー工法は、この方法を採用するための条件がいくつか存在するのです。例えば、もともと瓦屋根であればカバー工法は選べないとか、屋根下地まで劣化しているといった劣化が激しい屋根ではカバー工法を採用できないなど、いくつかの条件が付いて回ります。
葺き替え工事との違いは?
それでは最後に、葺き替え工事との違いや、カバー工法を選択したくても、葺き替え工事を選ばざるを得ない状況をご紹介しておきましょう。
葺き替え工事とカバー工事の最大の違いは、葺き替え工事の場合、既存屋根を撤去してから新たな屋根を葺いていくという点です。カバー工法は、この工程を削減し、そのまま新しい屋根材を葺いていくことから、工事の低コスト化、短工期を実現しています。
しかし、どのようなものにも寿命というものがあるように、屋根の下地材なども経年で劣化が進行しているわけです。葺き替え工事の場合は、そういった屋根下地の細かな劣化も全て修理することができるため、屋根が新築状態のように新しくなり、建物自体の寿命を延ばすことができるのが大きなメリットになります。
また、屋根下地の劣化が進行しているようであれば、カバー工事ではなく、葺き替え工事を選ばざるを得ないと考えておきましょう。以下で、葺き替え工事の方がオススメないくつかのケースをご紹介しておきます。
葺き替え工事が適しているケース
それでは、葺き替え工事が適していると言えるいくつかのパターンを以下でご紹介しておきます。
- ■既に屋根下地が劣化している
既に雨漏りしている…など、屋根下地まで劣化しているような状況だと、カバー工法ではなく葺き替え工事を選ばなければいけません。
- ■一度カバー工法によるリフォームをした
過去に、カバー工法による屋根リフォームを行った屋根は、再度カバー工法による施工ができません。このような住宅で屋根リフォームを進める場合、葺き替え工事を選択しなければいけません。
- ■瓦を採用している屋根
瓦屋根は基本的にカバー工法によるリフォームができません。厳密に言うと、できないわけではないのですが、現実的な施工方法ではないため、瓦屋根の大規模リフォームは葺き替え工事を選ばざるを得ないと考えておきましょう。
まとめ
今回は、スレート屋根のリフォーム手法として多用されるカバー工法の基礎知識についてご紹介してきました。カバー工法は、既存屋根の上から新たな屋根材を葺いていくことができる手法ですので、撤去工事や廃材の処分が不要で、葺き替え工事よりも低コスト・短工期で屋根を新しくすることができるのです。
スレート屋根は、屋根材の中でも耐用年数が比較的短いもので、必要なタイミングで適切なメンテナンスを入れてあげる事が安価に住宅を維持していくためにはとても大切です。特にカバー工事は、劣化が進行しすぎてしまうと、工事をしたくても葺き替え工事を選ばざるを得ない…なんてことになりかねません。屋根の状態などは、日常的にチェックしているような方が非常に少ないことから、気付いたときにはカバー工事ではリフォームが進められない…なんてことも少なくありません。
現在、スレート屋根を採用している住宅に住んでいる方は、適切なタイミングでメンテナンスができるよう、定期的に屋根の点検を行っておくのがオススメです!